ソムリエとして冒険家が今後目指すものとは。
前編で思わぬハプニングに見舞われながらも一次試験に合格した舟津さん。二次試験、三次試験はどうだったのでしょうか・・・
二次試験はテイスティング
続いては10月18日の二次試験。テイスティングです。
一次試験が受かって、2ヶ月半の間にワインは様々な品種、様々な国のワインを、近藤先生の教えを聴きながら、見て、嗅いで、味わってメモるだけです。先生が選んでくれたワインと他から購入したワインを合計すると100種類以上は飲んだでしょうか・・・。
冷蔵庫には常時ワインの小瓶が10本以上、ボトルも数本、ずらりと並んでおり、妻の恭江さんにとれば迷惑千万。
ソムリエ試験は家族の理解と協力が必要と聞いていたことがよくわかりました。
「ご協力感謝いたします」と、メモを貼り付けて、彼女の爆発を防いで、ワインたちを守っていました。
この試験は、世界の主だったワインの種類の外観、香り、味わいを判断できなければなりません。
それぞれの特徴から、欧州系かニューワールド系かを判断しつつ、最終的に葡萄の品種と生産国、生産年を決めるわけなのですが、ベテランソムリエでもなかなか正確に見分けるのは難しいわけで、わずか2ヶ月半で、ワイン3種類とその他の酒類2種(ワインエキスパートは、ワイン4種類とその他の酒類1種)を見分ける能力を身につけるのは到底無理な話です。
ただ、品種や生産国にはそれぞれの特徴があり、当てられなくても、正解を導くための判断の道筋が正しければ、それぞれの項目ごとに正解の回答を選んで行けますので、合格点は取れますとの近藤先生の教えを信じて、外観、香り、味わいの特徴がつかめるよう、多数のサンプルワインでテイスティングの経験を積むだけでした。
ワイン以外のリキュール系に関しては、45種類のサンプルを購入。香りで名前が出てくるよう、試験日まで香りを嗅ぐ毎日でした。
今年のソムリエ二次試験は白が2種類、赤が1種類(試験会場の自席に着席して初めてわかります)、あとはその他の酒類2種です。
10月18日試験当日、北海道の会場の札幌プリンスホテルに、一次試験を突破した人たちが全道から続々と集まってきます。緊張感がみなぎる中、ソムリエ協会のバッジをつけた担当官の「入場してください」とのアナウンスで、60人ぐらいが入れるホテルのきらびやかな宴会ルームの中に案内され、受験番号が置かれた席に着席します。
目の前には、既に5つのテイスティンググラスにワインとリキュールが注がれており、番号だけが記されていました。
試験官の10分間ほどのオリエンテーションの後、静寂の中、「スタート」の合図で一斉に試験が始まります。
それぞれをテイスティングしながら、外観、香り、味わい、全体評価、品種、国名、生産年を、各項目ごとに、用意されたマークシートに鉛筆で答えを塗りつぶしていきます。
40分の制限時間はあっという間に過ぎていきます。迷っている暇はありません。
気持ちは焦る焦る。
集中しながらワインと向き合う時間は、自分と3種のワインが一つに同化してくるような感覚です。
とにかく必死でした。
ワインエキスパートの試験は二次までですが、ソムリエ試験では、テイスティングが終わった直後に、三次試験の30分間で3問の論述試験もこなさなければなりません。
これはもう嫌がらせに近い、20分で3問の問題を計900字でまとめるという無理難題!
書き殴るようにとにかく字数を埋めれるだけ埋めるだけでした。
(この論述試験は二次試験受験者全員が受けて、二次試験合格者が受ける11月の実技試験と合わせて評価されます。)
試験に出されたワインの種類と国名と生産年だけは、試験当日の夕方5時に発表されるのですが、ダメだったかもと思いつつ、でも、考えの道筋は合ってるように思うと自分を納得させていました。結果的に白2種類(シャルドネとリースリング)の品種と生産国(フランスとドイツ)を正解することができました。赤はハズしてしまいました(正解はオーストラリア・シラーズ)その他の酒類の2種(イエガーマイスターとピスコ)は、イエガーマイスターが正解できました。
ピスコは南米チリでよく飲んでいたのですが、テキーラを選んでしまいました。これは悔しかったです。
ピスコが出題されたのは、初めてのことでした。
二次試験合格率は7割前後、でも3割が落ちると言われてました。白の2種が正解していたので、大丈夫だろうとは思ってましたが、10日後の合格発表まではやはり不安でした。合格者発表日、ソムリエ協会のホームページ上で自分の名前を見つけた時は、昔の受験のときを思い出す喜びだったです。この年齢になりこんな喜び、感動をまた味わえるとは思いもよらず、チャレンジしてよかったなぁとしみじみ思った次第です。
三次試験は実務!
最後は11月28日、三次の実技試験です。猶予はひと月あります。
とにかく毎日、コルクの抜栓とデキャンタージュ(ボトルからデキャンタにワインを注ぎ移す)、お客さん(試験官)へのサーヴィングを、奥さん相手に練習するだけでした。
試験日直前に、仁木にこられた近藤先生に、試験を想定してのリハーサルをやっていただいたのですが、慣れないデキャンタージュは、練習してたとはいえ、緊張して手が震えるぐらいで、そんなことも初体験でした。
試験当日は、2次試験と同じ札幌プリンスホテルの宴会会場、受験番号順に受験生が6人ずつ指定の部屋にゾロゾロと入っていきます。
3人の試験官がテーブルを挟んで3mほど先の目の前に座っていて、受験生6人が1m間隔ぐらいで横並びに並びます。少し説明を受け、「始めてください」の合図で、試験が始まります。
実技試験用のワインを置いてある棚から、そのうちの一本を運び出し元の場所に戻り、お決まりの台詞を言います。
「お待たせしました。フランス・シャトータサン、ヴィンテージは2019年でございます。こちらデキャンタージュさせていただいてよろしいでしょうか?」
その後、グラスや小皿、電灯、デキャンタをトレイに乗せて運び、抜栓、デキャンタージュ、サーヴィング、最後の片付けまでを7分以内でデモンストレーションします。
隣の人のワインをデキャンタに注ぐ際のガタガタ震える音が聞こえてきたり、他から「失礼しました!」と叫ぶ声が聞こえてきたり、「あーあっちは失敗したな・・・」とか思いながらも、我が身も緊張はしていましたが、震えることもなく、ほぼ無意識に練習通りのことをこなせました。
3次は9割が合格すると聞いていましたので、大きな失敗をせずに、また、2次試験の時に終了済みの「論述試験」さえ合格点に到達していれば、多分大丈夫だろうという気持ちでした。10日後の結果発表は、無事「合格」でした。この時は「やったー!」という気持ちより、「やっとおわった」と、ホッとした気持ちが強かったです。
2月半ばから始まり、12月7日の合格通知まで、長期戦でしたが、なんとかソムリエの資格を手にすることができて、心の底から達成感を感じた次第でした。過去の冒険行のチャレンジ後に感じるものと相通ずる達成感だったと思います。
11月で66歳になっていましたので、今年の合格者の中では最年長かそれに近い年齢だったと思います。
この年になっても、まだまだやればできるということを自分の中で再確認でき、2012年に南極点スキー行の際、石川社長がテントの中で披露してくれた、サミュエル・ウルマンの「青春の詩」を、思い出すこともでき、知的情熱の肉体的表現で、人生これからも青春だ〜! と、少しは若返った気分でした。
今回のソムリエ試験合格は、DACワインセミナーと近藤先生の献身的なご指導という強力サポートのおかげです。
色々な初体験を経験させてもらえたし、そこに新しい自分の側面を見ることもできました。
そして、12月29日にソムリエの金バッジが送られてきて(あのバッジは、ソムリエ協会から借りているもので、自分のものではないそうです)2022年の一大目標がThe End でした。
この場借りて、会社のサポート、石川社長、近藤先生、熱田顧問、他、協力していただいた方々、一緒に勉強したDACの仲間の皆さんに心から感謝です。ありがとうございました!
ソムリエとして冒険家として
ソムリエになって、世の中に貢献するという大それた考えはありませんが、NIKI Hills Wineryに勤務しながら、ソムリエと冒険家という立場から、より多くの来訪者に、過去の冒険の体験談を通して、ワインがもたらしてくれた喜びとか、ワインが人と人とを繋いでくれたといった、ワインの素晴らしさを伝えることができるのではと思います。
また、SDGsの観点から、地球環境に優しい持続可能な畑づくり、よりナチュラルなワインづくり、ワイナリー作りというところも勉強しながら、いろんな分野の人たちと情報交換できればと思います。
もちろん、アラスカに居を構え、アウトドアの世界で自然と共に生きてきた人間ですから、アウトドアで楽しむワインの世界も広げていければと思います。また、微生物という小さな生命が、ワインの生命に繋がってることや、微生物の力で、自らの生命にしろ、全ての生命が生かされているというところも、普段見過ごしてしまうようなことですが、自然に囲まれたNIKI Hillsの環境下で、ワインを通して考えもらい、ワインから地球環境のことまで考えてもらう機会づくりもできるように思います。
アウトドアアクティビティーの後、ワインを楽しみながら、ワイン談義や冒険談義に花が咲くということもあるでしょうし、「ワインは人と人とを繋ぐ」ですから、ワインを愛好する人たちとの交流を、これからも深めていければと思います。
南極点や北極点、どこかの山の頂上で、ソムリエとして、コルクを抜き、ワイングラスにワインを注ぎ、達成感の中、ワインで乾杯するというのはやってみたいですが、運ぶ間にワインが凍ってしまいそうですね。重たいのが難点だし、ガタガタ揺れるのもワインが可哀想なので、ちょっと無理っぽいか・・・。
次回は、僭越ながら私、広報・堀岡が担当させていただきます!
ワインよりビールが好き、普通の会社員の私がワインエキスパートに挑戦した理由、勉強の仕方、そしてワインエキスパートとなった後のお話などができればと思います。よろしければ是非ご覧ください!